独壇場Baby

独壇場Baby (16) 多田の土曜日

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≪ 多田 颯介 ≫

ほんとマジ、有り得ねぇ。
雨の音で目が覚めたら、彬の姿は部屋になかった。

今朝こそは裸エプロンの彬に起こされて・・・ってうちにエプロンはないけど、まぁとにかく恋人同士のイチャイチャっとした朝食を経て 「ぃやっ、朝ご飯食べたばっかでそんな・・・あっ❤」 みたいな甘いAMを過ごした後、14時になったら二人でスーパーに買い出し行く。 「彬、6月に鍋って時期外れじゃね?」 「でも、恋人と二人で鍋するのって夢だったんだもん。」 白菜やネギや肉を買い込んで、彬が凝って出汁を取ったスープで鍋をする。 「あぁもう腹いっぱい! もう何も入んないっ。」 彬が自身の腹をさする。 彬の手に手を重ねて、「俺のことも、挿んない?」 訊くと、彬は上目遣いで可愛く 「颯介は、別腹。」 なんて言って目を閉じた。 その瞼にキスをして、それから・・・。
っていう俺の予定はどうしてくれるんだ!?

あいつ、また逃げやがって! ってスマホを手にして・・・あぁもう!彬の番号まだ聞いてねぇ! 神谷から彬の授業スケジュールを入手したことで安心して、肝心の彬の電話番号を聞きそびれていた。 今日は土曜で授業ねぇし、日曜も当然休みだし、せっかくの土日に彬に連絡取る手段がねぇとか、俺って馬鹿なの?

彬への怒りと間抜けな自分への怒りがごちゃ混ぜになって、リセットしようとシャワーを浴びたけどイライラは収まらず、とにかくジッとしていられなくて、彬のマンションを探しに行くことにした。
ここから駅と逆方向に2分圏内ってことは分かってる、その範囲にあるワンルームマンションの集合ポストを片っ端から当たるつもりだ。 一人暮らしだと表札を出さない奴も多いが、彬は性格上、きっちり ”七浦” ってポストに貼ってある気がした。

玄関で靴を履いたと同時に尻ポケットのスマホがブルッた。 まさか彬か!? 慌ててスマホを取り出したら、画面には ”杏子さん” と出ていた。
『颯ちゃんっ、助けてっ!』
切羽詰まった杏子さんの声。
「落ち着いて杏子さん、どうしたの?」
『バイトの子が来れないの!!』
訊けば、今日のバイトさんが二人とも病欠で、シフトじゃない人にヘルプを頼んだが皆予定があって断られたらしい。
杏子さんと付き合ってた頃、別れてからも、同じようなピンチの時にホールを手伝ったことが数回ある。 つい1ヶ月前にもヘルプに呼ばれて・・・昨日のランチ予約はその礼であり、また宜しくね、の前金でもあった。
『颯ちゃん、お願いっ!』
彬を探しに行こうと思ってたけど・・・よく考えれば何かストーカーじみた行為だし、彬には月曜になれば会えるわけだし、旬カフェでバイトしてれば気が紛れそうだし。 で、旬カフェに行った。

土曜のランチタイムの旬カフェ前に出来た列のほとんどはカップルだ。 ラブラブしやがって・・・俺だって、本当は彬とラブラブするはずだったのに・・・って思ってムカついてつい仏頂面になり、杏子さんに 「颯ちゃん、顔、怖い。」 ってデコピンされた。
1席空いたので、列の先頭のお客様を通そうとした時、すぅっと男が脇をすり抜けようとした。
おい、ちょっと待て。
「あの、お客様、列にお並びいただけますか?」
振り向いたその長身の男は、酷く整った、綺麗な顔をしていた。 ”綺麗” って表現がぴったりな、派手な目鼻立ちの男は、 「誰に向かって列に並べとか言ってんの?」 って目をしていて、その高圧的な態度が俺を苛つかせた。
「皆さま順にご案内しておりますので、列の最後尾にお並びください。」
物凄く丁重に言ったつもりだった。 けど、その綺麗な男は、
「あんたも昨日、横入りしたでしょ。」
なんて言って。
俺は昨日は予約・・・普通は受け付けてないのにコネで予約しただけだけど、え?この綺麗な男も予約客なのか? 予約客がいるなんて、杏子さんは言ってなかったけど。 あぁでもそう言えば、一番奥の二人用のテーブルは空けておくようにって言われてたな。 って言うか、何でこいつ、俺が昨日来店したことを知ってるんだ? こいつも居たってことか?
「ぁっ!いらっしゃい雅君っ、いつもの席空けてあるからどうぞ?」
杏子さんが走り寄って来た。 何? この綺麗な男、そんなVIPな客なの?
「いや、彼に列に並べと言われたから、並んで待ちます。」
「え・・・っ、ご、ごめんなさいっ、いいのよ、雅君は特別なんだからっ!」
列に並ばせるなんて飛んでもない! とばかりに、杏子さんは彼を店の奥へとエスコートした。

後で杏子さんに訊いたところによると、綺麗な男=葛籠橋 雅 は、桜ヶ丘学園大学の音楽科の院生で、旬カフェに隣接した桜ヶ丘学園の男子寮、通称チェリー寮の寮生なんだって。 桜ヶ丘初、音楽コンクール入賞者であり、次は大賞かと期待されている人物で、加えて学園への寄付金も多額なことから、理事長も色んな面で彼に融通を利かせているらしい。 本来20歳までしか居られない寮に住み続けてるのも、旬カフェで特別待遇なのも、理事長のご威光だそうで。
「雅君はね、学園一のアイドルだったのよ? 優秀で、大学2年で卒業に必要な単位取り終えちゃって学校へは殆ど行かなくなったから、すれ違いで入学した颯ちゃんは知らないかもしれないけど・・・正直、颯ちゃんなんて目じゃないくらいのモテ男だったんだから❤」
そのモテ男も、本命が出来て大人しくなったそうで。
「雅君ね、昨日、颯ちゃんが来てた時も奥のテーブルに居たのよ。」
昨日も奥のテーブルに・・・あぁ、だから、俺が ”横入り” したこと知ってたのか。

横入りの件とか、学園一のモテ男だったとか、そんなことはどうでも良かった。
ただ、何となく、嫌な予感がしただけだ。
何の予感だ、って訊かれたらうまく答えられないのだけど。




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Re: 9:17の鍵コメさん

こんばんは!コメントありがとうございます^^
颯介、オレ様キャラの予定だったんですが・・・何かお笑いキャラになってきましたね(笑)

更新が不定期ですみませんが、最後まで楽しんでいただけると嬉しいです^^
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