独壇場Baby

独壇場Baby (17) 後の祭り

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≪ 七浦 彬 ≫

月曜日・・・が来てしまった。
目が覚めてから何度溜息をついただろう。 土曜の朝から降り続いてる弱い雨が、鬱々とした気持ちをますます意気阻喪させた。 どうせなら登校拒否の小学生よろしく腹痛でも起こってくれれば休む正当理由が出来たのに、身体に異変はない。
今日は2限からの日だったが、敢えて早く、1限に合わせて家を出た。 どうにも俺のスケジュールを把握しているとしか思えない多田が駅で待ち伏せていることを想定しての危険回避策だったが、しかし、そんな工作は必要なかったらしい。 昼になっても、多田は俺の前に現れなかった。

「多田っち、今日はランチの誘いに来なかったねぇ。」
学食の日替わり定食Bのコロッケを頬張りながら、神谷が言った。
教室でも学食でも、多田がいないか周囲を常に警戒していたのだが、多田は見当たらなかった。 俺の杞憂だったか・・・いや、しかし、今日は4限にゼミがある。 例え朝と昼を無事通過しても、ゼミで必ず顔を合わせることになる。 それを思うだけで、うどんが喉を通らない。
あの時、逃げずに多田と話し合い誤解を解いておけば・・・と思っても後の祭りだ。
「七浦、多田っちと喧嘩したの?」
「いや、喧嘩・・・と言う訳では。」
「じゃ、多田っちのHが良くなかったんだ?」
いや、ソレは良かった、物凄く良くて我を忘れる程に・・・って、神谷!?
「多田っちめ、せっかく俺がいろいろ指南してあげたのにっ。 また乱暴なHされたんでしょ?」
指南って、『師匠』 って、そういう意味か!
「まぁ、多田っちも、自制できないくらい七浦に夢中ってことでさぁ、許してあげたら?」
待て、待て待て。 神谷が俺と多田がセックスしたことを知っているということは、多田が神谷に喋ったってことか? 駄目だ、冷静な思考が出来ない。 でも、つまり、そういうこと、だよなぁ?
「シンデレラ見つける前に、七浦自身が多田のシンデレラになっちゃったね❤」
・・・・・・アーメン。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

いよいよゼミの時間が来た。
俺は、授業開始のギリギリまでゼミの教室のあるフロアのトイレの個室に籠り、始業のベルが鳴り終わる直前に教室に入った。 多田とのフリートークを回避するためだ。 思惑通り、席に着いてすぐに担当教授の加藤先生が入室したから、多田と会話せずに済んだ。
が、授業中ずっと、コの字型の座席の斜め後方に居る多田からの視線が・・・痛い痛い。 多田の切れ長の目で睨まれると、体が凍てついてしまう様だった。
終業のベルと同時に 「じゃ、俺急ぐから。」 と教室を出ようとした時、
「七浦っ!」
この声を無視したらどうなるだろう。 君子危うきに近寄らず、逃げるが勝ち。 けれど、逃げたら俺の憂鬱と恐怖の日々は果てなく続くことになるわけで・・・。
「七浦、話あるから、ちょっと残れよ。」
多田の険悪なムードを察したのか、ゼミ仲間の男女が 「じゃ、あたし達先帰るねぇ。」「また来週な、お疲れぇ。」 などと言いながらそそくさと教室を出て行き、あっという間に俺と多田の二人きりになった。 ご丁寧に、ラストの奴がドアまで締めてくれた。

「何の話か、分かってるよなぁ?」
えっと、俺が多田に無断で多田の部屋を去った件でしょうか。 それについてはそもそも、何故俺が責められなければならないのでしょうか、多田と付き合っている訳でもないのに。 ・・・って、そうだった、多田の中では、俺達は ”付き合ってる” んでした。 先ずはその誤解を解かないと。
『俺は多田にラブビームなんて送ってないし、好きじゃないし、この先も恋愛するつもりはありません。』 って、ピシッとキッパリ言いたいのに、多田に凄まれ、言葉が喉に詰まって出て来ない、怖くて。
「彬、俺が 『3ヶ月間は友達の振りしてくれ。』 って言ったこと、怒ってんだろ?」
いやいや、って言うか、
「友達、で、いいじゃないか。」
多田と俺は毛色が違うけど、音楽の趣味が合うし、一緒にいて楽しいし、俺達は友達として、うまくやっていけるんじゃないかと思うんだ。
 「友達はHしないぜ?」
ですね。
「耐えられんの? 彬が耐えられるってんなら、Hしないでやってもいいけど。」
望むところです。
「じゃぁ3ヶ月、ただのお友達しようぜ? 但し、3ヶ月後は覚悟しろよ? 気が狂うまでヤッてやる。」
・・・えっと、いや、そうじゃなくて。
が、ビシッとキッパリ 『俺、多田のこと好きじゃないんです。』 と言えなかった俺の過失だ。 後の祭り。
「取敢えず、”友達として” 一緒に帰ろうぜ?」
あぁ、はい、そうですね。

校舎を出ようとしたら、針のようだった細い雨が大粒に変わっていた。
「えっ!? 多田、傘ないのか? だって、朝から降ってただろ。」
「傘なしでも平気な程度の雨だったじゃん。 俺、傘嫌いなんだよね、煩わしくて。」
と言っても、この雨量じゃ・・・仕方なく、相合傘をして学バスの停留所へ向かった。
1本の傘に二人、当然に肩が触れる。 それを恥ずかしいと思うのは自意識過剰というものだ。 俺達の他にも、同性同士で相合傘してる人はいたし。 相合傘=恋人同士とは限らない。
「ただの ”友達” なんだろ? そんな固くなるんじゃねぇよ。」
だよな、そうなんだけど・・・。
さっき多田は、 『3ヶ月、ただのお友達しようぜ?』 と言った。 3ヶ月もすれば、多田の俺への執着はなくなるだろうと思う。 何しろ多田は交際が3ヶ月と持たない奴だから、3ヶ月の間に俺への興味を失うか、他からラブビームを浴びて改宗するだろう。
ホッとしていいはずのことなのに、何だか胸がチクチクと痛んだ。
雨のせいだと思った。




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