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ENDER/SS (1話完結もの)

(SS) ENDER/秋桜

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仕事帰り、必ず立ち寄る店がある。
通い始めて、もう三ヶ月。
商店街の真ん中、赤提灯の居酒屋。 亡くなった父親の後を継ぐため脱サラしたという三十代半ばの大将と、学生のアルバイトが一人。
大将の名前には、『カズ』 がつく。 本人から聞いた訳ではない。 先代からの常連客が、彼を『カズちゃん』 と呼ぶから、知っているだけ。 脱サラのことも、客の会話から知った話だ。

「いらっしゃいませ! いつものでいいですか?」
爽やかな笑顔の大将に小さく頷き、いつも通り、カウンターの端に座り、いつも通り、ポテトサラダとその日おすすめの焼き魚をつまむ。 今日の魚は、初物の秋刀魚だった。 ゆっくりと箸をつけながら、大将と常連客の会話に耳を傾ける。

「カズちゃんさ、エミちゃんのこと、そろそろちゃんとしてあげたら?」
『エミちゃん』 というのは、大将の恋人だ。 歯科衛生士の 『エミちゃん』 は、毎夜九時になると、店を手伝いに来る。
「ははは、まぁそのうちね。」
「そのうち、なんて言ってたらあっという間に老けるよ? オレみたいに禿げてからじゃ相手にされないよ? ねぇ? そこの可愛いお兄ちゃんもそう思うよねぇ?」
・・・え、僕?
「お兄ちゃんも毎日ひとりだけど、嫁さんいないの? 駄目だよ、こんなとこ居ないで女探しに行かなくちゃ、若いんだから。」
え、えっと、あの・・・。
「いますよね?」
バイト君が言った。
「いつもきっかり九時に帰るから。 家で、奥さんか彼女が待ってるんでしょ?」
「・・・・・・はい。」
嘘をついた。 本当は、待ってる人なんていないのに。
「それよりタケさんっ、聞いてくださいよっ、オレこの間、サークルの飲み会でさぁ。」
「何だよ、またモテ自慢かぁ?」
「違うって、飲み会で先輩にさぁ。」
バイト君が、 『タケさん』 と僕の間に立って 『タケさん』 と喋りはじめた。
助かった。 人と話すのは、苦手だから。

「ごめんね! ちょっと遅くなっちゃった。」
『エミちゃん』 の登場と同時に、僕は席を立つ。
「ありがとうございましたっ。 また明日。」
大将が僕に微笑んだ。 僕は一礼して、店を出た。

商店街の出口を曲がって大通りに出ると、街路樹の下で、秋桜の花が踊っていた。
濃いピンク、淡いピンク・・・風に揺れる秋桜が指揮者となって、僕の心に軽やかな音楽を奏でる。  
「また明日・・・か。」
『また明日、お越し下さい。』『また明日、お待ちしております。』 それだけの意味だと分かっている。 けど、『また明日、会おうね。』と言われたみたいで、嬉しくなるんだ。

「待って! 止まって!」
後ろから声がした。 バイト君だった。
「あんた、意外と足速いね。」
走ったのだろうか、彼は少し、息切れしていた。
「これ、忘れ物。」
折り畳まれたレポート用紙・・・らしき、紙切れ。
「え・・・いえ、僕のじゃない、です。」
「いや、あんたのだよ。」
強引に手渡そうとした彼の手を払った拍子に、紙切れが路上に落ちた。 
「ぁ・・・すみません・・・。」
バイト君は紙切れを拾い、目を閉じて大きく息を吐いてから、言った。
「あんたさ、もう店に来ない方がいいよ。」
・・・・・・え?
「カズさん、来月、エミさんと結婚するんだ。」
・・・ぁ、そう、なんだ。 大将ってば、さっきは『そのうちね。』 って言ってたのに、実はもう、決まってたんだ。
別に、驚きはしない。 大将には彼女が・・・って、分かっていたことだから、ショックではない。 ただ少し、胸が苦しいだけ。
「だから、どんなに店に通っても、カズさんはあんたのものにならないよ。」
・・・・・・なに? 何でそんな・・・。
「見てりゃ分かるよ。 あんた、人と話すの苦手だし、酒が好きな訳でもないだろ? なのに店に来てるのって、カズさんが目当てなんだろ?」 
「ぼ、僕は別に・・・っ。 店には、夕飯を食べに行ってるだけでっ、他には何も・・・っ。」
何も望んでない。 大将と付き合いたいとか、好きになって欲しいとか、思っていた訳じゃない。 ただ、顔を見て、大将の作ったものを食べて、同じ空間に居たいって・・・ただそれだけなのに!
「夕飯なら、オレが作ってやるよ。」
「はぁ!? 何言ってるんだっ。」
「オレが、あんたん家で飯作ってやるって言ってんの。」
「意味が分からないっ、何で君が僕のっ。 第一、君、バイトがあるだろう!?」
「辞める。 バイト始めたの、あんたがあの店に入って行くの何度か見掛けたからだし。」
「はぁっ!?」
意味が分からない。
「あんたの片想い、オレが終わらせてやるよ。 失恋には、新しい恋が一番だろ?」
・・・全くもって、この子の言っていることは意味不明だ。
返す言葉が見つからない。
思考、停止。
黙った僕を見下ろして、彼は何だか嬉しそうに微笑んだ。 それから、フッと屈んで、花壇の秋桜を手折り、例の紙切れと一緒に、僕の手にそれを押し付けた。
「・・・なに?」
「告白には、花がつきものだろ? バラの花束じゃなくて悪いけどさ。」
また、意味不明なことを。
「じゃ、また明日会おうね!」
そう言って笑った彼の後ろ姿が小さくなるまで、僕は動けなかった。

どれくらい、立ち竦んでいたのか・・・救急車のサイレンが聞こえてきて、ハッと我に返った。
掌の中の紙切れを、広げてみる。
11桁の数字が並んでいた。
僕は、紙切れをポケットに突っ込んで、呆けたまま、アパートに帰った。
帰宅してまず、キッチンの蛇口をひねってコップに水を満たし、秋桜を挿した。
狭いキッチンの片隅、風に揺れてもいないのに、秋桜は、僕の心を揺さぶった。


秋は短く、長い冬が過ぎ、街の花壇に赤白黄色のチューリップが並ぶ。 夏の太陽の下でサフィニアが咲き誇り、そしてまた、秋桜が揺れる季節になった。
今日も僕は、商店街の真ん中、赤提灯の暖簾をくぐる。
「いらっしゃい! いつものでいい?」
爽やかなカズさんの笑顔。
「うん、今日の魚なに?」
「秋刀魚、初物。」
「やった! あれ、エミさんは?」
「そろそろ産まれるってんで、昼間に実家に帰ったよ。」
「そっか、いよいよカズさんもパパかぁ。 十月十日なんて、あっという間だね。」
「あっという間・・・そうだな、あの日からもう、一年だしな・・・。」
カズさんが呟いた。
カズさんの言う『あの日』がどの日のことか、訊くまでもない。
あの日、彼が僕を追って来た日・・・。

「こんばんはぁ!」
ガラッと、景気よく店の入口の引き戸が開いた。
「おぉ、来たか! 非常識な元バイト!」
カズさんがニヤリと笑った。
「え?なに? なんかオレ、昔のことで責められてる?」
彼が、僕の隣に座った。
「ねぇねぇ、何の話してたの?」
と彼が訊くから、
「ちょうど、『あの日から一年だね』 って話。」
と答えた。
「あの日?」
あの日・・・で、分かれよ。 僕の口からは、恥ずかしくて言えやしない。
「お前がいきなり店でカミングアウトして、『今から追っ掛けて告るんで、バイト辞めます!』 って出てった日のことだよ。」
やめて、カズさん、恥ずかしいからっ。
「あぁ! オレ達のはじまりの日のことね!」
彼が悪びれず笑った。
『オレたちのはじまり』・・・あの日、僕は、君への恋をはじめた。

「ねぇ、この後さ、家に行ってもいいよね?」
「・・・・・・駄目。」
「何で!?」
だって、君に見られるのは、恥ずかしいから。
今、僕の部屋のキッチンには、君を想って手折った秋桜の花が、コップの中で穏やかに咲いている。



Fin.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
こんばんは! 後藤ゆりです。
久し振りにSSを・・・って、SS、二年振りでございましたΣΣ(゚д゚lll)オッ!

「救急車のサイレン」 の辺りでバイト君を殺しそうになり(笑) 我ながら焦りました。
殺しちゃったら、前SSの 【曼珠沙華】 と被ってしまう(笑)


次回作、絶賛「もやもや」中です!(笑)
すみませんっ。
少しお休みさせていただきますが、また、すぐに、お会いできることを祈って!
(早く書けよ、自分(笑) )




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